クリーニングのトータルコンサルティング
2015年09月02日
理解されているようで、なかなかクリーニングの場で実行できないのがロットシステムです。
「ロットとは組のことです」「ロットとはある固まりです」「ロットとはある集合体です」。最初の"ロットは組のこと"です。これだけで全てを理解されてしまうか方もおられますが、多くの方がこの最初の言葉でつまずいてしまいます。
もっともこの話、クリーニング以外の話を例にすると理解されるのですが、クリーニングの場に置き換えると解らなくなるようです。
《蕎麦屋の組》
お連れさん数人でおみえになって「鍋焼き」と「もり」が注文されたときには、「鍋焼き」を出してから、「もり」を遅れて出す。これを同時に出したり、他のテーブルから「もり」の注文があったからなどといって「もり」を先に出したら、食べ終わっても席を立っていただけずテーブルがいつまでたっても空かないことになります。
《修学旅行の組》
修学旅行中、見学先で「先生おしっこ」と言われたら、この子が戻ってくるまでバスは出発できないのです。
☆蕎麦屋はテーブルが《組》で、修学旅行はバスが《組》なのです。
ロットシステムが万能のような事を考えておられる方がおられますが、出来ないことは出来ないのです。
例えば、工場の洗える量が2,000点となれば、一週間で14,000点しかできないのです。日によって店舗での取り扱い点数が3,000点になったり、1,800点になったりしても、一週間14,000点を超えたら絶対に仕事は出来ないのです。
これは洗いの設備の問題であって、作業能力の問題ではないのです。ロットの問題を話し合っているときに、このようにロット以外の問題の相談を受けることがありますが、これは「無茶」というより他はありません。
これを解決するには、洗浄設備の購入、保管業務・短期保管の導入、一部外註等の方法をとる事なのです。
ロットシステムの要諦は、工場への入荷量が、工場の生産能力の限度内であることです。
ロットシステムとは、工場内の仕事のあり方を定め、お客様の納期を守る作業方法を確立することです。
『会話』
全てはカウンターでの会話で始まるのです。では、何をお話ししてほしいかというと「お渡し日」・納期の約束なのです。幸いにして、土日の多く(50%近く)のお客様が、次の土日の来店となることです。これを活用するとコントロールが楽になるのです。
納期の確約により、商品の工場へのコントロールが可能となり、安定した納期が作れる、という好循環となるのです。
商品をコントロールすることによって、工場の入荷量を一定化(平準化)し、工場能力を充分に働かし(突出した入荷量がなく残業が減り、平日の仕事が多くなり設備・要員が有効に生かせ)利益を生み出すことが、ロットシステムを生かす最大の目的なのです。
さらに、店舗では引き取りが確実になり、在庫商品が減り、店舗内に空間を生み出すこととなります。
カウンター従業員・営業担当者の方は、納期の約束をされていると思われているようですが、多くの場合「水曜日には出来上がりますが」「水曜日の夕方には出来上がっております」、「お急ぎならば火曜日には出来上がります」というように話されています。これは〔商品の出来上がる日〕をお知らせしているだけで、納品(お引き取り・お渡し)の約束ではありません。
「次回はいつご来店いただけるでしょうか」「お渡しは何日にいたしましょうか」全てのお客様とこのような会話がなされなければならないのです。 このうえ、常連様(来店日がハッキリしているようならば)、「(本日)夕方お待ちしております」、「土曜日にご用意しておきます」となりますし。
「いつでも良いのよ、急がないから」と来店のハッキリとされないお客様には〔(近くの)カレンダーの来店してほしい日を指さし〕来店を促すようにします。多くの方が、これで約束いただけます。
この時、「いつなら出来るのよ」と聞かれたら、一番早くできる日を言って下さい。その後のセリフは多くの場合「そりゃ無理よ、じゃ水曜日にして」となります。つい、遠い日を言われる方がいますが、自分で自分の首を絞めていると教えて下さい。
また、「工場のシステムが変わって、納期がお約束出来るようになりました」「いつご来店いただけますか」と続けば上出来です。しかし、「お引き取りをお客様にお選びただきたいのですが」この言い方はまずいのです。なぜならば、これは会社に言わされているという印象を持たれるのです。
カウンターの従業員の多くの方が「納期のお約束をしていると」言われますが、実は、話しやすい方とお話ししているだけで、大半の方とは話されていないのです。時々は会話をチェックして下さい。
《結論》
・お客様(常連)の来店サイクル(利用状況)を覚える
・必ず、(上記以外の)お客様に期日(来店日)を言っていただく
・カレンダーを手の届く範囲(指させる)に2ヶ月分用意する
・お約束を会社に言わされているような発言はしない
・「お急ぎですか」とは決して言わない
『組』
「ロットとは組である」ということであるならば、クリーニングではどのように組を作るのですか。
ヒントは納期です。通常、クリーニング工場での加工処理は、入荷→検品・前処理→洗浄→仕上げ→包装・整理→出荷で、約2時間30分~3時間といわれます。
しかし、この流れに乗せることの出来ない商品があります。また、時間としては同じだが処理が異なる商品があります。また、外註のように極端に納期のことなるものもあります。
これらは、異なった《組》として、別々にされ、違った袋に入れられて管理します。ここで作られるのが「組」の最小単位です。
《組の種類》
〔一般品(ドライ/ランドリー)〕、特殊品〔デラックス、撥水加工、折り目加工、ダブルウォッシュ、寝具類等々〕、外註品〔和服、皮革・毛、段通等〕。何をどのように組み分けするかは、会社の事情により異なります。
《コントロールとは》
コントロールとはドライ商品の工場への入荷量を平均化することです。このことは、個々のお店が工場へ渡すドライ商品の数量を平均化することです。
このためには、コントロールのための袋の用意・管理が必要となります。一般商品袋・チェック台帳を一週間分(平日5日分)、特殊品袋必要分を曜日・日付順に用意します。コントロール数が一袋で済まない場合は、この袋の管理も大きな仕事となります。以下、まず、一般商品について述べることとします
このための一つの目安となるのが「コントロール数」です。
コントロール数は、前年同時期の一週間の仕事量の平均数、プラス10~20%で計算します。また、コントロール数は、春の繁忙期、夏、秋の繁忙期、冬の4パターン程度で異なった数字を求めます。決して点数制限ではありません。このことがお客様に感じ取れるような発言を決してさせないようにして下さい。
このようにして求められた数なので、お店としては充分なゆとりがあるはずです。工場へ出す商品の数量が上回るようなことの無いように話し合って下さい。伸びているお店への配慮は怠らないで下さい。
《バカなことを言わないで下さい》
時々、コントロールする商品の置き場、一杯になった商品袋の置き場が無いと言われる方がおられます。しかし、考えてみて下さい、出来上がった立体の商品と袋に入った商品のどちらが嵩高で場所を取るのですか。袋を置くところが無いのなら、出来上がった商品の置き場もないので、商品管理は出来なくなるのです。袋の方が、明らかに管理しやすいのです。
大体、現在の在庫が多すぎるのです。従って、まず、今日からの商品を確実に引き取っていただけるように「お約束」して下さい。これにつれて在庫が大幅に減少するはずです。
『配送』
ここのお店で作られた「組」を集めてくるのが配送です。この集められた「組」が工場の「組・ロット」です。従って、工場でロットといえば配送単位で集められた「組」の集合です。
この「配送・ロット」に名称・番号をあたえます。これが、ロットナンバー(名)であり配送名です。工場に入った商品は全てこの単位で纏まって動かします。
工場は、集められた1ロットの処理が、2時間30分から3時間で終わるのですから、配送は、入荷したロットを3時間後に配送に出れば良いことになります。
「朝お預かりして、夕方お渡し」を実践するにはこれを遵守し、例えば、10時に入荷→14時に出荷・配送、11時に入荷→15時に出荷・配送、12時に入荷→16時に出荷・配送とします。
基本要素として考えることは「入荷後、3時間したら出荷状態にある」ということです。
配送は店舗の密度・集荷時間により、店舗への配送回数、ロットの大きさの単位、工場設備によって、入荷時間の間隔、ロット数を決めます。
ある意味では、この配送・集荷のテクニックが、ロット運営の正否をにぎっているとも云えます。
何故ならば、1日2回集配が可能な距離のお店、2回配送は出来きるけれども、当日お客様にお渡し出来ないお店、1日1回しか配送の出来ないお店等々いろいろなお店を考えて配送コースを設定しなければならないからです。
また、配送はいくつかの異なった配送パターンで動くことになります。すなわち、コントロール数の違いによる入荷量の変化、土・日・祭日によってことなる配送順・時間とします。これに従って配送時刻表を作ります。
配送は、作られた時刻表に従って配送をします。工場で商品が揃った・出来上がったからといって早く出発してはなりません。時間厳守です。
『ロットと運用』
全ての考え方が「ロットを守る」ことでなければなりません。ロットの混乱はそのまま工場の混乱です。ロットの混入は、工場内不明品の発生、捜し物による時間の浪費、出荷・配送の混乱となります。
全ての作業はロット単位で行います。原則、ロットを他のロットと混ぜては作業しません。最も、配送の組み方によっては、次のロットがないので混ぜたくても混ざられない状態となります。
この考え方が充分理解出来ていない人ほど、少なすぎてワッシャーがもったいない、洗剤が多くいる等といって混ぜて洗うのです。結果、後でロットを分けるのに苦労したり、後のロットが終わるまで前のロットの商品が揃わないことになるのです。
《ロットは引っ張るように動かす》
ロットを編成すると、ロットを次々と工場へ押し込むように考える人がいますが、これではロットが詰まる(滞貨)ようになります。ロットは次々と引っ張られるように作業を考えます。
すなわち、ロットの運用は、「このロットの配送出発時間は」、このための「出荷チェック終了は何時」、このためには「包装・整理の終了時間は」、このための「仕上げ終了時間は何時」、このための「洗浄・乾燥時間終了は何時」と後から考えて行きます。
このことは、朝一番最初の入荷時には「配送が着いたらすぐに作業が着手出来るように」体制を取らなければなりません。すなわち、前日の集荷商品は、朝一番の入荷時には少なくとも入荷の処理は終わっていなければなりません。
このように考え工場内での商品の滞貨・残留が発生しないようにします。
※ワイシャツプレスの時、カラーカフスとボディプレスの間に商品を溜める例は、この 悪い(押し込む)考え方の典型です。
《ロットを混ぜないで》
まず、ロット単位で作業することとはどういう状態なのか、充分理解出来るまでは絶対にロットを混ぜないで作業をして下さい。すなわち、ロットに区切りをつけて、極端にいえば「1ロットの仕上げが終わるまでは(1点でも仕上げる商品がある間)、次のロットの商品は乾燥機から出さない」、「包装しているロットが全て終わるまでは、出荷チェックは決してしない」。このことによって、ロットを区切ると云うこと、各作業が「何点で、何分で出来る」ことがわかります。また、各作業の不備、作業の効率、無駄な作業の判明などが明らかになります。
《表示》
各作業、各機械では現在どのロットを処理しているか必ず「表示」されなければなりません。これは全ての作業場所、機器に用意されます。また、離れた場所からでも解るようにして下さい。
乾燥ボックスのように、どうしてもロットが混在しなければ作業が進まない所では、複数のロットの商品を表記出来ることが「特に」大切です。
乾燥機には、自分で入れて、自分が出すから必要ないなどと高をくくっていると、たまたま手の空いた人が出してロットが混ざるような、ヒドイ目に遭うことになりかねません。
《手の空いた人はいないのです》
この作業だれがするの?と問うと、作業によっては「手の空いた人がする」と答えられることがあります。
しかし、閑散期はこれでよいとしても、繁忙期になれば皆忙しくしていて「手の空いた人」はいないのです。したがって、この「手の空いた人がする作業が、遅れ品・不明品を生むことになるのです。
全ての作業は、「誰がやる」または「誰が確認する」と決めて、ミスの起きないようにします。
※古くは、ボイラー室・乾燥室で、商品を持ち込んで乾燥をするのですが、誰が取りに 行くか決めていないで「手の空いた人」の仕事でした。このため、ここはロット遅れ のたまり場でした。
《ロットに戻す》
商品によってはロットから外れる、ロットが混在する場合があります。
ロットの混在は、①ドライから分けられ水で洗う商品(綿パン、シャツ類)の乾燥機器、②シミ抜き等で発生します。しかし、大きな問題となるのは、③洗い直し、④再加工等でロット外商品を一緒に処理したとき、⑤乾燥などでの遅れ品がロットに追いついたとき、⑥少量のロットを一緒に処理したときなどです。
これらの商品が一時的に不明となるのは、人為的要因(うっかり、ルール無視)です。
乾燥で発生する①では、機器内の商品の表示、また、遅れている商品の確認、取り出しを適当にするからで、仕上げのロット終了時に乾燥機の商品を確認する人を決めておかなければなりません。この作業を適時手の空いた人にするというのは無責任です。あくまでも、最後の確認者を決めておかなければなりません。
シミ抜き②でのロットの混ざりは、必ず、先の商品から順に処理することです。ここでの間違いは、処理の簡単な商品を先に手をつけることです。シミ抜きで時間を要する商品は、一度お客様のお手元にお返しして、確認の上再度お預かりする処置が必要です。最初のカウンターで対応出来るようにする方がサービスが良いといえます。
③、④、⑥の問題は、これらがネットの色分けにより主ロットと区分されなければならないのに、ルールを無視して適当にネットを使う、洗い上がったときにネットから出してチョットその場に置いてしまうことによって発生します。要は、皆がルールを守れば問題はないのです。
⑤のロット遅れの商品がロットに追いついたときにおこるミスが、いろいろな所で発生します。乾燥機にネットで分けて入れられていた商品、乾燥機から出して、ネットから出し、仕上げの人に「前のロットだから」と他の商品の上に置く。ロット遅れの商品を仕上げ、包装・整理の場所に持って行き「○○ロットの商品、置いておくね」とスリックなどに吊した商品。言われた人は忙しさにかまけて忘れてしまうのです。これが、あとで不明・探しものになるのです。
これらの商品の移動は必ず『手渡し』します。
第5話に続く